職場トラブルよろず相談所

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ミャンマーで何がおきているのか 私たちに何ができるのか

 在日ビルマ市民労働組合

  委員長 ミンスイさんに聞く

 

突然住居に踏み込み銃撃する軍

子どもたちの命まで奪う


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 2月1日に軍事クーデターをおこしたミャンマー軍は、抗議デモを行う非武装の市民を銃撃。多数の死者を出す事態となっている。多くの国はミャンマー軍の暴挙を批難し、軍関係者の資産凍結、経済支援事業の停止などの経済制裁を決定。そんな中、ミャンマーにもっとも多くの政府開発援助を供給し経済関係の深い日本は、“黙認”に等しい態度をとりつづけている。いまミャンマーで何が起きているのか。日本にいる私たちに何ができるのか。JAMの構成組織である在日ビルマ市民労働組合ミンスイ委員長にお話をうかがった。(インタビュアー:松上隆明)

●恐怖と暴力で国民は支配できない

――アメリカのマスコミは「無抵抗な市民700人以上が軍によって殺害され、少なくとも2,700人以上が拘束されている」(4月11日時点)と報じています。ミャンマーにいる人たちとSNSなどで連絡を取り合っていると思いますが、どのようなことが起きているのでしょうか。

ミンス 4月4日だけで100人以上が殺されました。4日の夕方にマンダレーから送信してもらった画像では、軍が殺害した市民の遺体をわざわざほかの場所の路上に投げ出し、放置するような行為を行っています。

――なぜ、そんなことを。

ミンス “見せしめ”のつもりなのでしょう。「お前たちも軍に逆らったら、こうなるぞ」と。

――アメリカのCNNニュースは、軍が市民を狙撃していると報じていますが。

ミンス 誰かをねらって撃っているというよりも、大勢の人が抗議行動をしているところに無差別に撃ち込んでいる。しかも単発のライフル銃ではなく、自動小銃で連射しているのです。
 軍は国民を自分たちに従わせるためには暴力をふるい、殺人も行うしかないと考えています。恐怖で国民をおさえつけるしかないと思っているのでしょう。しかし、そんなことをすればするほど国民は軍に従わなくなります。逆に軍に反発し、憎むようにしかなりません。

 2月1日にクーデターがあり、その3日後にミャンマーでクーデターに反対するデモがはじまりました。それから1週間もしないうちに、市民は警察や軍に花束や食事をあげて「同じ国民どうしなのですから、お互いに敬い合いましょう」と呼びかけました。

――平和的に話し合いましょうと訴えたわけですね。

ミンス しかし、デモ開始の10日後から、現在のような国民への攻撃がはじまりました。その後は、若者たちが中心になって、「軍事政権はいらない。軍や警察は国民を攻撃するな」と訴えつづけています。この運動の中心は若者たちで、年配者・ベテランは彼らをバックアップするようにしています。だから、軍に殺害された犠牲者の多くは若い人たちなのです。

●若者は自分と国の未来のために戦っている

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2021年2月14日の東京都内でのデモ行進

――日本でも、クーデターに抗議するデモに参加している人の圧倒的多数は若い人たちですね。

ミンス 2月14日に代々木~渋谷~原宿でサイレント・デモを行い、5000人近い人が集まりました。このときに集まった人の7割くらいは若者でした。私も一度も顔を見たことのない若者がたくさん集まりました。「こんなに若い人たちが出てきてくれたんだ」と驚きました。

――なぜ、ミャンマーでも、日本でも、たくさんの若者が運動に参加するのでしょうか。

ミンス 今みたいな状況だから、新型コロナウイルスに感染するのも怖いけれども、感染しても薬などで対処することはできます。しかし軍事政権がつづけば、自分や家族が、いつ、どこで殺されるかもわからない。何が起こるかわからない。それはコロナウイルスよりもずっと怖いことです。だから、多くの若者が「軍政がつづけば、私たちの未来がなくなってしまう」と訴えています。
 現在のような事態が長引いて経済的に苦しくなってくると、運動をつづけるのがだんだん困難になってきます。だから、いま、若者たちががんばっているうちに、私たちが一丸となって国際社会のミャンマー軍に対する包囲網を広げていかないといけないと思っています。

――「ニューヨーク・タイムス」は18歳以下の子どもが少なくとも40人以上犠牲になっていると報じています(4月5日)。

ミンス 私が聞いた一番ひどい例は、家の中で父親がひざの上に小さな子ども抱いていたときに、突然軍隊が踏み込んできた。父親が軍人と話をしようとし、子どもが父親から離れた瞬間に撃たれてしまったそうです。

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――突然、家に踏み込んでくるのですか。

ミンス 軍は「この家の中に誰かいるか」と叫びながらドアを蹴破って入ってくる。そういうことをひんぱんに行っています。また、一定の地域では、道を歩いているだけの若い人(20~30代。とくに男性)を片端から拘束しているそうです。

●何の行動もおこさない日本政府

 ――アメリカやイギリスはミャンマー軍関係者や関連企業への経済制裁を打ち出していますが、日本政府は何も明確にしていません。

 ミンス 日本の外務省に申し入れをして、軍関係の企業に経済制裁を行ってほしい。経済援助を停止してほしいと訴えています。しかし、「検討します」というだけで何もしていません。いったい、いつまで、どれだけの若者が殺されるまで「検討」をつづけるのですか? 私たちからみれば、日本政府はミャンマーのクーデターを黙認しているようにしか見えません。

 ――もともと日本とミャンマーの経済的関係は非常に強い。多くの日本企業がミャンマーに進出しているし、政府開発援助(ODA)の金額でも、実態がわからない中国を除けば日本が一番多いでしょう。このまま日本の企業や政府がミャンマーへの経済支援をつづければ、それは軍事政権を支えることになってしまう。逆に言えば、日本が経済支援を断ち切ると言えば、英・米政府の経済制裁以上の効果があるはずだ。

 ミンス だから、在日ミャンマー市民協会は国際人権団体のヒューマンライツ・ナウとともに、3月26日に菅首相、茂木外相、上川法相に対して「公開質問状」を出しました。クーデターを起こした軍が国民を殺害していることをどう受け止めているのか。経済制裁を行わないのはなぜか。政府開発援助などが軍の資金調達につながっているという指摘がある。調査を行い、事実ならば事業を停止すべきではないのかなど12の質問を行いました。ここでもまた、外相からの回答は「制裁を含む今後の対応については、事態の推移や関係国の対応を注視し、何が効果的かという観点から検討します」というだけでした。
 表向きは「制裁も含めて検討します」と言いますが、日本の政府、企業や財団はミャンマー軍と太いパイプを持っていることを私たちは知っています。だから、「検討します」と言われても、「何もしないつもりです」としか聞こえないのです。
 ミャンマーに進出している日本企業は400社以上あります(JETROによれば433社)。その400以上の会社からは、今回のクーデターについて何のコメントも出ていないでしょう。こんなにひどいことが行われているにもかかわらず、黙っているというのは、「黙認」ということでしょう。
 ミャンマーへの経済支援などの仲介をしている日本財団(公益財団法人。故・笹川良一氏が創設。現在の会長は笹川陽平氏)も、今回のクーデターについて、いまだに何のコメントも出していません。2020年の総選挙では、笹川陽平氏は国際的な選挙監視団の日本側のリーダーでした。選挙後に彼は「ミャンマーの総選挙は自由かつ公平な方法で平和的に行われた」と記者会見で言っているのです。彼の報告にもとづいて、日本政府も選挙は正当なものであったと認めています。それなのに、なぜ、その総選挙で「不正があった」と言いがかりをつけてクーデターを起こした国軍を、批難しないのですか。

技能実習生制度も利権の温床に

ミンス 笹川氏は昨年11月末にミャンマーを訪問し、日本大使館の丸山大使と連絡を取りながら、(スーチー氏ら国民民主同盟側に何の断りもなく)軍の司令官たちと会っています。また、今年1月29日には日本ミャンマー協会(一般社団法人)の渡邉秀央会長がミャンマーを訪問。その2日後にクーデターがおきています。
 彼らがどういう話をしたのか。本当のところはわかりません。しかし、クーデターの直前に日本政府や自民党と太いパイプをもつ団体の代表がひんぱんにミャンマーを訪れ、軍の関係者とも会っている。私たちは「そこで何を話し合ったのか明らかにしてほしい」と言っていますが、まだ何の回答もありません。

――日本ミャンマー協会はどういうことをしている団体ですか。

ミンス ミャンマーからの技能実習生を日本の管理団体が受け入れるときには、かならず日本ミャンマー協会を通さないといけないことになっています。管理団体は多額の「手数料」を協会に支払っています。1団体について初年度10万円、翌年からは5万円を払わなければいけない。さらに、送り出した実習生が3人増えるごとに1万円ずつ払わなければならない。毎年、数千人の技能実習生がミャンマーから来ていますから、とても多額のお金が動いています。

――やっていることは、技能実習生制度で利益をむさぼるブローカーと大差ないですね。

ミンス 日本財団、日本ミャンマー協会などの団体は、自民党の政治家や政府と強固な関係をもっています。それにミャンマーに進出している数多くの日本企業が結びついている。さらに彼らは、ミャンマーの軍や軍関係の企業ともつながっている。このような構図があるから、日本の企業も政府も、クーデターを黙認するような態度をとりつづけているのではないかと、私は疑っています。
 日本政府は安倍政権のときから「積極的平和主義」だと言っているでしょう。いまのミャンマーは全然平和ではありません。積極的に海外にも平和をもたらすと言うのであれば、クーデターに反対する姿勢を明確にして、軍事政権への経済制裁を断行すべきです。

 

クーデターの背景、軍vs市民の対立点
民主化闘争の歴史を振り返る~

 

●「民政移管」後も権力を握りつづけた国軍

――日本の中には「クーデターがおきた背景がわからない」という人も大勢います。大まかな民主化闘争の歴史と、軍と市民の間で何が争点になっているのかをお聞きします(年表参照)。

 ミンス 1988年頃からの、大まかな流れをお話します。1988年のクーデターで政権を掌握した軍は、総選挙を実施すると公約し、たくさんの政党ができました。このとき、民主化運動の指導者であるアウンサンスーチーさんたちの国民民主同盟(NLD)も結成されます。
 しかし、翌年の1989年にはスーチーさんを自宅軟禁。それ以降、軍は何度も何度もスーチーさんの長期軟禁を繰り返しています。1990年に総選挙が行われたときも、スーチーさんは軟禁されたままでした。
 1990年総選挙ではNLDと民族政党が勝利します。これで危機感を持った軍は議会召集を拒否し、民主化勢力を徹底して弾圧するようになりました。

 ――このときから、激しい弾圧が行われるようになったのですね。

 ミンス この頃から軍は暴力で国内の民主化勢力を弾圧し、中国とのつながりを深めながら国民を支配する路線を明確にしたのです。

 ――軍は言い訳として、「欧米諸国が経済制裁をするから、中国と結びつきを深めないと経済を維持できない」と言っていますね。

 ミンス それは嘘です。国内の経済を軍が牛耳って、利益を全部吸い上げてしまうから、ミャンマーの経済は悪化した。経済が成長しても、国民は少しも豊かになれなかった。だから、軍事政権下では、世界の中でも「最貧国」に近いところまで落ちこんでしまったのです。

――その後、2007年にテイン・セイン氏が首相に就任して、「軍主導の政治体制を改革する」と宣言したところから、事態は少しずつ変わってきた。

ミンス 表面的にはそうですが、実際には軍の支配を変えることにはなっていません。今回のクーデターに対しても、テイン・セイン氏は賛成しているのですよ。それだけでも、彼の立場がわかるでしょう。

――2011年以降の「民政移管」も非常に不徹底なものだったと。

ミンス 一番の問題は、「民政移管」の中でも、2008年に制定された憲法がそのまま温存されたことです。2008年憲法によって連邦議会の25%の議席は、あらかじめ軍に割り当てられています。法務省防衛省は完全に軍の支配下にあります。警察や裁判所も軍が掌握しているままです。
 そのほかにも、憲法59条には、「本人や配偶者、子供が外国籍、もしくは外国から何らかの恩恵を受ける立場にある場合は、国家元首の就任要件に欠け、大統領にはなれない」とか書かれています。スーチーさんの夫(故人)はイギリス国籍であり、息子さんもイギリス国籍を持っています。憲法59条はスーチーさんを大統領にしないためにつくられた法律です。
 だから、NLDが選挙で圧勝した現在でも、スーチーさんは大統領ではなく、「国家最高顧問」という肩書きになっているのです。

――国軍の経済支配も何も改革されてはいないと。

ミンス 120以上の事業を共同で展開する「ミャンマー経済ホールディングスリミテッド」と「ミャンマー経済公社」は、現役もしくは退役した軍幹部によって支配されています。いまでもミャンマーの大企業の経営や貿易の約8割は、実質的に軍がにぎっています。

――ミャンマーの経済が発展していないわけではなくて、利益を軍が横取りしてしまっているからうまくいかないわけですね。

ミンス その意味では、ミャンマーは中国とも違います。中国の政府は自分たちのことを共産主義だと言っていますが、私は独裁政権だと思っています。でも、中国では経済が成長すれば国民も豊かになっている。国民にも利益が分配されています。だから中国という国は維持されているわけでしょう。
 ミャンマー軍は、国民に何の利益も分配していません。こんなことをしていて、国が維持できるわけがありません。

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●2020年総選挙での国民民主同盟の圧勝にあせった軍が暴挙に出た

 ――数々の障害を乗り越えて、NLDは2015年の選挙で勝利し、2020年の総選挙では圧倒的な勝利を勝ち取りましたね。

ミンス 2020年の総選挙で、NLDが予想をはるかに超える圧勝を収め、改選議席の80%以上を獲得。本格的な民主化を推し進める方向へ動き出していました。これから、2008年憲法の改正も含めて本当の意味の民主化がはじまる。それで、軍はあせったのだと思います。
 また、軍がクーデターを起こした大きな理由の1つに、2019年にNLDが打ち出した中国企業との契約の見直しがあります。中国企業との契約期間が切れたら延長せずに、それがミャンマー国民のためになっているかどうかを検証し、国民のためになっていないなら契約を解消するというものです。中国企業とのつながりを強めて自分たちの権益を守ろうとしてきた軍にとって、このNLDの政策は大変な脅威だったのではないでしょうか。

 

 ――ミャンマー国内の労働組合は、軍に対してどのような態度をとっているのですか。

 ミンス ミャンマーでは労働組合がいくつかの団体に分裂していて、うまく機能していない面があります。しかし、今回の軍事クーデターについては、労働組合はみんな強く反対する声明を出しています。

国は違っても想いは同じはず
JAMの組合員のみなさんへ

――最後に、JAMの組合員のみなさんに言いたいことがあれば、お願いします。

 ミンス 労働者というのは、日本人であろうが、ミャンマー人であろうが関係なく、同じ立場だと思います。日本であろうがミャンマーであろうが、労働者がいなければ、ものづくりもサービス提供も行えません。労働者には、それにふさわしい地位や権利が保障されるべきです。
 だから、JAMのみなさんの力で、日本にいる外国人労働者の権利や命を守ってほしい。それとともに、ミャンマー国内にいる労働者の命と権利を守ってほしい。そして、ミャンマーでの本格的な民主主義の実現を支援してください。